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先日、巻き起こったちょっとした労災事故について。
私の妻は某病院で医師をしているのですが、業務中にとある薬品が顔にかかってしまうという事故に遭いました。放置すると皮膚がただれたり、目に入れば当然目を傷めることになる溶剤です。
ま、妻も医師ですから、そこは素早く対処して15分くらい念入りに流水で洗い、その後で念のため診察も受けて、「ケガには至らなかった」と私に報告してきました。
「これは労災として手続きした方がいいか?」と私に聞いてきたので、ふと気づきました。「ケガしていない」場合に、労災の適用はあるのか?
ことの経緯からすれば100%労災です。そしてこの場合の「ケガしていない」という判定は、有害溶剤の曝露ということの性質上、医師の診断をもって初めて確定することです。では、「ケガしていない」という診断に要した費用は、労災保険で賄われるのでしょうか?
じらしてもしょうがないので結論を言いますと、「ケガしていない」場合は労災適用はありません。
私もこの問いを受けた時、高い確率で労災適用されそうだけど、はて、ケガしていない場合に労災はどうなる?と思いました。
労災保険法の第7条には、保険給付の対象になるのは「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」と定められています。労基署が出しているパンフレットなども、労災事故により「負傷したら」療養補償給付が出ると説明されています。
ですからごく形式的に理解するなら、負傷に至っていない場合は労災給付はない、ということになります。妻の診察に要した費用は、妻の健康保険で処理して、労災適用はないと。
とはいえ状況的には完全に労災案件ですし、有害溶剤を浴びた時の診察費用が出ないなんてあるの?という常識的疑問はなお残ります。
職業上の興味もあって、労基署に問い合わせてみました。するとやはり「ケガしてない」ならば、労災にはならないとのこと。しかしながら、医師の診断上なんらかの傷病名がついているならば、労災適用の可能性はあると言われました。
確かに妻が言った「ケガはない」というのは、あくまで日常用語としてであって、厳密に医師の診断で傷病名がついていないのかとなると、そこまでは確認していませんでした。現実には妻は「ケガはないものの、目薬は処方された」とのことなので、おそらくなんらかの傷病名はついているでしょう。ですから労災適用も、高い確率であるはずです。
実際、後から確認したところ、病院の事務方も「完全に労災だから、すぐ手続きしてくれ」と言ってきたそうです。
日常会話における「ケガはない」は、必ずしも医師の診断における正規表現で「負傷なし」ではないわけです。
今回は労災事故において、「ケガはない」がその確認のために医師の診察を受けた場合、労災適用はどうなるかという、あまり考えたことのなかったケースに出会いました。特に有害溶剤の曝露のように、医者の判断が求められる時どうなのかは興味深いところでした。
結論としては、負傷に至っていない=ケガはないならば、労災適用はない。しかし、それは医師の診断における厳密な表現において確認すべきことで、日常生活感覚としての「ケガしてない」とは違う、ということです。
自覚症状もなく、外見上の顕著な症状もない場合でも、溶剤が目の粘膜を痛めている可能性はあるわけで、医者としてはなんらかの診断はつけて目薬の処方くらいしますよね、そりゃあ。
なかなかいい勉強になりました。
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