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◆「税務署の判断に従うべき」という固定観念
先日、商工会議所におけるセミナーで、従業員に対するとある支払いについて「これを給与(報酬)とみるか否か」の判断が、年金機構と、税務署と、労働局で違いが出るという趣旨の話をしました。
で、思い出されたのが、10年以上前に行ったセミナー後に受けた質問でした。
その人は、「税務署が給与と考えるなら社会保険においても給与だろう。(お前の言っていることはおかしい)」という見解を持っていました。
実はこういう「税務署神話」のような考え方、一般の方には多いように思います。税務署の判断に他の役所も平仄を合わせるべき、税務署の判断に基づいて経営者も判断すべき、そういう思考回路です。
◆請負代金の扱いを巡って
今回のセミナーで話したのは、ある請負代金についての位置づけです。従業員が会社から発注を受けて、請負としてある業務を処理した場合、その請負代金は「給与・報酬・賃金」になる可能性ありやなしや、ということです。
請負としての外形をきちんと整えていて、現実に指揮命令関係もなく、フリーランスとしての権利も十分に担保されていれば、請け負っている人物が従業員だとしても、それは正しく請負です。
問題は、その判定や評価は各役所が各法律に基づいてそれぞれに判断するということ。
ですから、
年金機構「報酬に当たらない」
労働局「賃金に当たらない」
税務署「給与に当たる」
といった具合に、評価が分かれることも起こります。この時、ありがちなのが「税務署が給与と判断したのだから、当然社会保険上もそのように扱うべきだし、労働保険においてもそうだ」という発想です。
実はそんなことは全く必要でなく、税務署は税務署、労働局は労働局、年金機構は年金機構です。それぞれ準拠する法律が違うので、結論がばらついても何の問題もありません。
◆社宅家賃の扱いはバラバラ
実際に、今回のセミナーでも「社宅」の取り扱いについて、労働局と年金機構で扱いが違うという例を紹介しました。どちらも厚生労働省管轄の組織なのに、扱いが変わるのです。
細かい説明を省いて言うと、次のように違いがあります。
年金機構 「社宅は、会社が家賃を全額負担していても、家賃の一部分だけ現物給与(計算方法も決まっている)」
労働局 「社宅は、会社が家賃を全額負担しているなら、福利厚生。よって現物給与扱いもしない」
社会保険料については、一部とはいえ報酬扱いするのに、労働保険料については何と「福利厚生」となってしまうのです。なかなか驚きです。
またこのほかにも最近議論になった論点で、通勤手当の取り扱いについて税務署と年金機構では違いがあるという問題もあります。
税務署は非課税の通勤手当は給与とみなしませんね(だから非課税なのだが)。しかし、社会保険料の計算上は非課税の通勤手当も「労働の対償」として、報酬(給与)に当たると考えます。よって社会保険料はかかります。
◆「税務署神話」はただの思い込み
このように、現実には「税務署の判断が絶対」などということは全くなく、何なら厚労省管轄の組織同士でも準拠する法律が違うために結論が変わったりするわけです。
だから例えば先の請負の話でも、もし税務署が「これは給与だ。よって源泉徴収するべきだ」と判断するなら、それに従って源泉徴収すればいいでしょう。
しかしだからといって、指揮命令関係もない請負について、その請負代金を報酬扱いし社会保険料を納付する必要があるかと言えば、ありません。
もちろん「税務署神話」の背景にあるのは高い遵法意識であって、法律を守ろうという姿勢です。それは素晴らしいことなのですが、法律はそれぞれに独特の意図や目的を持っていますから、法律を守ろうと思うならなおさら特定の行政機関の判断を神聖視しないことが必要です。
法律の違いからくる結論の違いは、むしろ尊重するのが遵法的な態度です。
税務署は社会保険料の扱いに関心などありません。税は税、社会保険料は社会保険料です。ですから税務署に言われたからという理由で、社会保険・労働保険の扱いを見直そうと考えると結論を間違えます。
私は税については素人ですが、事業主さんにとって「税務署」というのはまるで時代劇のお奉行様のような存在感らしく、その判断を絶対視する傾きがあるなと、むしろ門外漢ゆえによく思います。
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